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2008 08,24 22:07 |
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その瞬間、あたしは全く顔色を失っていたことだろう。
もはや緊急事態だと思ってペナルティエリア内で相手の21番を倒してしまった。 そのこと自体はしょうがない、そう思っていた。イエローが出されるだろうことも仕方がない、そう思っていた。 しかし出されたカードは、黄色ではなく、赤だった… 残り時間は少なくなっていたとはいえ、1人少ない不利な状況にしてしまったことが、私には非常に悔しかった。 今日は因縁ともいえるスプリングサンズ戦。 戦力を落としていたからだとはいえ、第1ステージは2戦2敗。やはり目覚めは悪い。 しかもこの前の最終戦で負けたことでリーグタイ記録の5連勝を許し、そして今日のゲームにリーグ新記録の6連勝がかかっているというのだから、その記録に花を添えることだけはしたくなかった。 だから北見監督も、この開幕戦であえてあたしたちを投入したんだと思う。 ありがたいことに先週のゲームでは苺以外のメンバーは全員休めたし、苺も先週のゲームが初ゲームでしかも点を取って調子が良かったから、そういう意味では結構ありがたい状況ではあったんだ。 そして向こうは代表組をこぞって落としてきて。 守備陣は結構スカスカな状況だった。 でもその分守備に力を入れていたから、ゲームが始まってもなかなかゴールを割らせてもらえなかった。 今日はサイドから崩そう、という約束ごとをしていたので、あたしもすみれちゃんも一生懸命サイドから崩そうとしていたんだけど、なかなか育美にボールが回らなくて。 そんな時にありがたかったのが、清川さんが中央から攻めてくれたこと。 両サイドからの崩しが通用しないと悟った清川さんは、逆に中央から徹底的に崩そうとしたみたいなんだ。 そしてミドルシュートを放った時にその中央からの攻撃が意外に脆そうだと気が付いた、らしい。 …あとで清川さんが話してくれたんだけどね。 得点の瞬間も清川さんからの放り込みがきっかけだった。 清川さんが正確なフライスルーを育美に向かって飛ばす。 育美にはDFが2枚ついていたんだけど、巧みに身体を入れながらボールをDFの裏に落とし、唖然とするDFの間をすり抜けて裏に飛び出した育美がそのまま強烈なシュートをゴールに見舞った。 育美は笑いながら、 「望さんからあれだけいいパスが来たんだから、それをゴールにつなげるのがボクの仕事。代表で得た経験をもとに一生懸命頑張っただけだよ」 あとでそう答えてくれたけど、一瞬の隙を逃さないスキル、それは育美の最も大きな武器なんだろうな、なんて思ったものでした。 結局うちが圧倒的に押した形で前半は1-0で折り返しました。 ところが後半はなかなかうまくいきませんでした。 早めに交代を出したこともあって次第に向こうのペースになって、逆にこちらは涼ちゃんとすみれちゃんの運動量が落ちてきたりして。 北見監督はここで遥ちゃんとくるみちゃんを投入してきたけど、それでもなかなか流れを引き寄せられなくて。 そうこうしているうちにやはり連戦で身体がきつくなったのだろう、苺ちゃんの動きも悪くなってきたように感じ、北見監督も苺ちゃんのかわりに綾音ちゃんを入れて。 それでも流れは全く変わらなかった。 時間はなくなってきているけど、なんとか流れを変えなければ、そう焦ってきている自分がそこにいました。 そしてあの瞬間、ここは止めなければ、そう思って足をかけたのですが。 まさか退場するとは思っても見ませんでした。 茫然自失となった私は、ピッチをとぼとぼとベンチに向かって歩いていきます。 ベンチに来たあたしに、北見監督はあたしの背中を押しながら… 北見監督の座っていた席の隣に座らされました。 そして私の顎を横から押し上げます。 「夏穂、君が取ったことの結果をしっかりと見ておきなさい」 北見監督は、少し冷酷な雰囲気でそう言いました。 「でも、こんなの…」 「まだ点は入っていないぞ」 「でも…」 「確かにPKは入る確率は高いと思う」 「だから…」 「だけどゆかりが止める確率も、相手のキッカーが外す確率も、それなりにはあるわけだけど?」 「えっ!?」 「だから今はゆかりを信じよう。そして相手が外してくれることを祈ろう」 北見監督は何となく、自分に言い聞かせるような言い方をしていた。 決して高いとは言えない、その確率を信じて。 私も北見監督の言葉を思い返して、そして祈った。 PKが放たれた。 吉野さんはそのシュートに届きません。 「!」 しかし次の瞬間、ボールがクロスバーに弾かれて跳ね返るのが見えた。 キッカーは呆然としているのか、その場に立ち止まったままだ。 「茜! 落ち着いてクリア!」 北見監督が叫びます。 「茜! 落ち着いて!」 あたしも思わず叫びました。 ピッチではボールの落下位置に真っ先にとりついた茜が、落ち着いてボールを前方に蹴り出すのが見えました。 「だから言ったろ? 奇跡は起こるかもしれない、って」 北見監督が横であたしに言いました。 あたしは素直に頷きました。 「あっ、でもゴメンなさい。次のゲームに出られなくなって」 あたしはそう言って北見監督に謝ったのですが、北見監督は「何言っているの?」という表情をしています。 「でも、あたしが出られないのは…」 「代表選手は第2節はお休みにする、って言わなかったっけ?」 北見監督にそう言われて、あたしは思い出しました。 「その代わり第2節は代表選手としてしっかりと仕事はしてもらうぞ、と」 「代表選手としての仕事?」 「サイン会に、子供たちへのサッカー教室、そして代表選手の表彰式。これだけいろいろとやってゲームなんか出せないだろ」 北見監督はそう言って笑いました。 「まあウインターカップはもしかしたら出す機会があるかもしれないけど、第2節まで休みな訳だし、いずれにしてもベンチ外に出すつもりだったからちょうど良かったんじゃないの?」 何となくそう言われて救われた気がしました。 そして1人少なくなったうちが、なんとか残り(といっても5分程度なんですが)を凌ぎ切って、1-0で勝ちました。 ミーティングでは結構冷やかされましたけど、まあ結局は勝ったんだし、とみんなから大目に見てもらいました。 ただ吉野さんからは「あとでおごりな」と一言。 …はい、分かっています(笑) ご心配をおかけしました。 何人かからあたしの出場停止で何か変化があるのか、と聞いてきましたけど、北見監督はきっぱりと、 「全く変更なし。むしろ夏穂が退場になって都合が良かったくらいだ」 そう言いました。 みんなも「代表選手は第2節を休ませる」という方針を聞いているので、ホッとした表情になっていました。 でもホントにゴメンね、みんなにも心配をかけちゃって。 次の第3節では頑張るから、勘弁してね。 最後に。 今日のご褒美は清川さん、ということになりました。 やはり機転を利かせての中央からの攻撃、あれが生きたということですよね。 PR |
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